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2018年1月、聖ヨゼフ学園小学校は学校教育法第一条に規定される日本の小学校として初めての国際バカロレアPYP(Primary Years Programme)校に認定されました。学校設立当初から聖ヨゼフ学園小学校は「信仰、希望、愛」のカトリックの価値観に基づいて、児童の人間力育成に力を注いできました。本記事では、歴史ある聖ヨゼフ学園小学校の新たな試み、国際バカロレアPYP導入について取材させていただきました。
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吹き抜けホールには印象的で巨大なモザイク絵画があります
インタビューさせていただいた先生方
校長 荒屋先生
日本人としてのアイデンティティを持ちながら世界で活躍できる人を育てたい―校長 荒屋先生
「IBが指定する6つの教科融合テーマは、地球上どこのPYP校でも共通のものです。聖ヨゼフ学園小学校の学びもその意味では世界標準になったと言えます。世界標準の中で、本校の教育を充実させることが一番大きな目標でした。『自分で考えて行動し、振り返りをする学び』は、どの時代でもどのような場所でも活きるのではないかと考えています。未来を見据えて夢を持てるような学校でありたいと思いますし、それがPYP教育を通して実現できることだと考えています」
児童と共に創り上げていく授業を―齋藤先生(PYPコーディネーター)
「児童の学びの部分で特に大切にしているのは、やはり『一緒に作り上げる授業』を目指すというところです。なにか新しいことを学習する状況で『何か気づくことはある?』と聞いた際に子どもたちの手が一斉に上がり、共通点や違いを自分たちで探せるようになりました。疑問に対しても自分たちで答えを見いだせるようになってきたと思います。自分たちが興味を持ったところから授業をしていくと子どもたちも気づきが多いですし、私も子どもたちも楽しいと思える授業ができています」
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聖ヨゼフ学園小学校は児童の教育のために学校の校舎からも学びを得られる環境が整えられています。まずは聖ヨゼフ学園小学校の学校施設の魅力について、校長先生に伺いました。
「施設としては全て誇れるのですが、やはり一番は教室です。木造で木の温もりを感じられる教室なんですね。教室のロッカーも木で作られて、大きさはランドセル一つと少しお道具がやっと入るくらいの大きさです。見てみると傷もついていますし、木ですから汚れももちろんあります。しかし、そこから温もりが伝わってくる部分もあります。子どもたちは代々教室を受け継いでいきますが、この木のぬくもりから子どもたちには『ものを大事にする』心を学んで欲しいと思っています。子どもたちは私たちがそういうことを教えるまでもなく、『ものを大事にする』心を自然に学んでいってるんですね。今年に入ってから、二年生の子に『ロッカーが小さくて申し訳ないな』と声をかけた時に、『でも校長先生、これって私たちは借りてるものだから。』って言ったんです。これがすごく新鮮で。詳しく聞いてみると、『また学年が変わったら返さなきゃいけないし、先輩のものも使うからこれは借りてるんだよ』と。だからどうするの?と聞いてみると『大事にする』と答えたんですね。我々が思っている以上に子どもはきちんと感じているんだなと感じさせられました。今年からIB校に認定されましたが心の教育はそれ以前から大事だと思っていて、それを一番に感じられるのがこの教室だと思っています」(校長先生)
教室での授業風景
「学校には小さな聖堂もあります。毎週木曜日には有志で集まってミサを開いています。カトリック系の学校でミサを毎週やっているのはおそらく本校だけだと思います。やはりミサを通して愛が育まれていくので学校施設の中では誇れる部分です。小さな聖堂ですが、大きな愛があふれ出てくる場所だと思っています。ミサ以外でも朝、お昼、帰りに必ずお祈りをします。このことを非常に大事にしています。同じ時間帯に全児童と教職員が心を合わせる、この時間が心の教育にも大きく繋がっています。また、聖ヨゼフ学園小学校では全ての挨拶が『ごきげんよう』なんです。『ごきげんいかがですか?』といったニュアンスがあって、『体調はいかがですか?』『元気?』『また明日もあおうね』などいろんな意味合いを持っています。この挨拶から子どもたちの中では『人を思いやる』心が自然と育まれていると思っています。この施設や挨拶の習慣もIB教育に大きく関わっていると感じています」(校長先生)
毎週木曜日の朝にこの聖堂でミサが開かれています。
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2018年1月からPYP校として認定された聖ヨゼフ学園小学校ですが、従来の教育法とは異なるIB PYPに移行を踏み切った理由について伺いました。
「もともとIB教育は、全人教育でヨーロッパから出てきた教育なので、その精神はカトリック学校としては非常に親和性が高かったと思います。IBを取り入れたきっかけとしては『ヨゼフの教育をよくするために』ということに尽きます。最初からIB導入ありきにはせずに、聖ヨゼフ学園小学校で65年間育ててきた教育をいかに洗練し、現代に合ったものにするかを模索するための研究を始めた時に出会ったのがIBです。IBを用いて本校の教育をより良くしたいという想いが導入のきっかけになりました」(校長先生)
「聖ヨゼフ学園の創設者の言葉に『私たちはこの世の様々な問題を他人事にせず、自らの課題として積極的にとらえて人々の真の平和と幸福を創り出す人を育てる教育を目指します』とあって、これは私たち教職員全員が基本スタンスとして共有しています。他人に思いを寄せるという精神に基づいて教育を実践していくことを教職員は常に考えています。人に寄り添うということは、黙ったままの受け身の姿勢では実現できません。この精神がIBに通じるところで、『自分で考えて行動し、振り返ってまた次に進む』という要素を授業内にも必ず取り入れています。振り返りをすることで進化した新しい自分が生まれていくので、『振り返り』の時間をどの授業でも共通して設けているのです」(校長先生)
児童の探究ノート。教室に置いてありいつでも見返すことができます。
齋藤先生はPYPコーディネーターとして導入を主導する傍ら、音楽を担当していらっしゃいます。実際に現場で児童たちに接する先生として、PYP導入の効果を伺いました。
「児童の学びの部分で特に大切にしているのはやはり、私たち教師が提供するのではなく、児童たちと一緒に作り上げる授業を目指すというところです。音楽の時間に新しいことを学び始めるときも、子どもたちが音符の共通点や違いなどに自然と気がつくようになりました。子どもたちと一緒に作り上げる授業をしていると、時には突拍子もないことを言う子もいて授業がぐちゃっとしてしまうこともあります。でもそんな時でも、『どうしてぐちゃぐちゃになってしまったんだろう?』と振り返り、子どもたち自身で答えを見いだせるようになっています。自分たちが興味を持ったところから授業をしていくと子どもたちも気づきが多いですし、私も子ども達も楽しいと思える授業ができています。
子どもたちが主体的に参加する授業をする中で、他者のことを自分ごととしてとらえられるようになるという効果もあります。例えば、音楽会で他の楽器の子が間違っていたとしても『この子が間違っているからいけない』と他人事にするのではなく、『どうして全体のリズムがあっていないんだろう』という疑問を全員で考え、自分たち全員のこととして考えられるようになってきています」(齋藤先生)
ー校長先生がおっしゃっていたように、ヨゼフが重視していた教育とPYPがうまく融合しているのですね。逆にPYP導入時に難しいと感じられたことはありますか?
「もちろん基本的な学習項目の中には教えなければいけないこともあるんですが、自分で考える力を伸ばすために教えてはいけないものと、教えなければいけないもののさじ加減はもちろん難しいと考えています。探究を深めるために教えないほうが良いものがある一方で、武器がなければ戦えないようにベースがなければ探究は深まりません。そのバランスは日々見ながら授業を行なっています。探究に関わっている教員同士では、週に一回ウィークーリーミーティングをしてプランを練り直しています。担任同士でも毎日の探究の流れと、一条校として押さえなければいけない部分の進み具合を授業の終わりには話し合っています。子どもたちの意見も参考にしていて、『誰かがこんなつぶやきをしていた』という子どもたち自身の気づきを探究に取り入れることもしています。PYPを導入してから先生同士で児童たちの話をする時間は増えたと思います」(齋藤先生)
児童たちが授業で作ったマインドマップ。小学校の授業と思えないほど深い思考力が求められます。
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ーPYPを取り入れるに当たって聖ヨゼフ学園小学校の授業はどのように変わっていったのでしょうか?またそれによって児童たちはどのように変わっていったのでしょうか?
「国際バカロレアを取り入れてはいますが日本のカリキュラムに沿っているので、転校転入される場合でも日本の通常の小学校と同じ内容の授業を受けられる安心感はあると思います。また日本人として基本的な学びを身につけられるということも大きな良さです。よく入学前の方から質問を受けるのですがIBというとやはり『英語教育』というイメージがついているので、日本語でPYPを受けながら国際的な視野を身につけることについて疑問に思う方は多くいらっしゃいます。私たちとしては第一に日本人としてのアイデンティティを確立していきたいと考えています。このアイデンティティを基礎とした上で世界について考えて欲しいと思っていて、日本人として日本語で自分の考えをしっかりと表現できて初めて世界のことに目を向けられるのではないかと考えています。懸念点としては、探究の流れに沿って指導内容が変わっていくため、単元の入れ替えが多く発生することです。教科書通りに授業が進まないことに不安を抱かれる方も多くいらっしゃると思います。しかし子どもたちは通常なら誰もが経験するであろう『なんでこんなの勉強しなきゃいけないんだ』と思うことがなくなったように感じます。探究をベースにすることで『これを知りたいからこれを学ぶ』という考え方に変わっていきました。知りたいことがあるのにカリキュラムがあるから学年が上がるまでは知れないということはなくなり、知りたいと思ったことを一気に知ることができる仕組みになっています」(齋藤先生)
ーPYPはIBから指定された決まったカリキュラムはなく、学校側がIBが設定したテーマに沿って自由にカリキュラムを組むことができます。聖ヨゼフ学園小学校ではどのようにカリキュラムを組まれているのでしょうか?
「テーマはIBOによって世界共通で決められています。このテーマに沿って私たちが子ども達に伝えたいこと、知って欲しいことを考えた上でカリキュラムを組んでいます。例えば一年生では『自己肯定感を高めたい』という思いがあったので、それをセントラルアイデアとして自己肯定感を獲得するためにどんなことを学んでいけばいいのかについて考えた上で、各教科の中でパズルのように融合させて授業を編成していきます」(齋藤先生) 「各単元はセントラルアイデアを獲得するための資料のようなイメージで使っています。一年生の授業では『自己肯定感』に関連して、生物では生き物は互いに繋がっているということで『食物連鎖』について学ぶのですが、これは本来六年生で学ぶ単元を取り扱っています。先生方からは食物連鎖なんて言葉は難しすぎるんじゃないか!という声もあったのですが、子ども達としてはすんなり入っていってしまうようで、難しい言葉を知るのが楽しいと考えているようです」(齋藤先生)
聖ヨゼフでの6年間の授業カリキュラム。マーケティングやクラウドファンディングなど話題性のある内容にも取り組んでいます!
ーPYPの最終過程であるエキシビションに対して学校はどのように関わっているのでしょうか?
「学校としてエキシビションを行うのは今年が初めてです。通常の教育からPYP教育に移った移行期を経験した六年生にとっても初めてのエキシビションになります。彼らにとってはものすごいチャレンジだと思います。男女差別についての発表をするチームは今度街頭演説をするのですが、街頭演説をするために警察の方に許可を取りに行きました」(齋藤先生) 「エキシビションにあたっては校長の許可も必要なので、校長室でのプレゼンも全員にしてもらいました。相手は小学生とはいえ、細かくフィードバックをたくさん入れてくださる先生もいらっしゃって、そのたびにめげそうになるこどもたちもいますが、このような経験は社会に出たときに必ず役に立つと考えています」(校長先生)
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ー聖ヨゼフ学園小学校ではどのような児童に入学してほしいと考えていますか?
「本校の教育をしっかり知ってくださった上で選んでくださる方に入っていただきたいです。夢を描いて、その夢を実現させられる場でありたいと私たちは考えています。色々なことに意欲、興味がある方はもちろん歓迎ですし、本校に入学した後に興味を深めて夢を実現する力を身につけていってほしいと思っています。その一環として、今年から『子どもが考える姿』を見れるような試験のあり方をより意識しました。答えだけでなく答えを解く過程が見えるような問題作りを意識しています。入試の対策としては『家庭でできるかぎりたくさん会話をすること』です。会話をすることで自然と考える時間が増え、『考える』ことに慣れると思います。またそれによって自分の意思を持てるようになるので夢を見ることや未来に向けて行動することもできるようになっていくと思います」(校長先生)
ー学校の様子を知ることができるイベントはありますか?
「学校説明会が6月と9月にあります。その先にある運動会もどなたがいらしていただいても大丈夫です。日常的には授業の見学はいつきていただいても対応しています。ご家庭で授業を見学されたい方がいらっしゃればいつでも!」(校長先生)
今年度の聖ヨゼフ学園小学校の説明会(2020年度入試)
・授業見学会 6/22(土)9:00-12:30(予定)
・夕暮れ説明会 9/3(火)17:00/17:30/18:00/18:30
・授業体験会 9/7(土)9:30-12:00(予定)
・B日程説明会 11/15(金)9:45-11:00(予定)
・C日程説明会 1/9(木)9:45-11:00(予定)
詳しい情報は公式HPをご確認ください
本記事では聖ヨゼフ学園小学校の魅力の一つとして新たに加わったPYP教育について紹介しましたが、いかがでしたか? 筆者がインタビューを通して特に印象に残ったのはPYP教育を受けている生徒たちの活気でした。授業を見学させていただいたのですが、先生方がおっしゃっていた通り皆さん疑問や自分の意見を一貫して持っていることを意識していて、先生と生徒お互いに学びのある環境がとても素晴らしかったです。
このように日常的に子どもたちが主体性を持って学校生活を送ることができる学校はPYPのみならず、将来MYPやDPを受ける生徒たちにも必要な環境だと筆者は感じました。
聖ヨゼフ学園小学校やPYP教育に興味のある方は是非一度学校見学に行ってみることをオススメします!
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日本語で授業させていただいてますが、説明が分かりやすく質問にも丁寧に答えてくれています。授業科目以外の経験やアドバイスもシェアしていただいてるのでIB全体の参考になり助かっています。
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