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市立札幌開成中等教育学校(以下、札幌開成)は、公立の学校として初めて、IBのMYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)の認定校となった学校です。すでにDPの認定も受けており、IB教育を6年一貫で受けることも可能になりました。公立の学校でIBMYPとDPの両方の認定を受けているのは、2019年10月現在では札幌開成のみです(国立では学芸国際があります)。今後、大宮国際中等教育学校や高知国際中学校・高等学校など、公立中高一貫のIB認定校は増える見込みなので、どんな学校か気になっている方も多いのではないでしょうか?
この記事では札幌開成でのIB教育が気になっている方に向けて、「札幌開成のIBクラスではどんな教育が行われているの?」「将来の進路はどんなものになるの?」など気になる点を校長先生や現場の先生方へのインタビュー形式でお伝えします。また、EDUBAL編集部が感じた、他のIB認定校と比較してのおすすめポイントなども最後に紹介していますので、札幌開成が気になっている方はぜひ最後まで読んでください!
これから増えるであろう公立中高一貫型のIB認定校に関心がある方も必見です!
校舎は新しく、開放感がありました。教育の特徴に合わせた設計がされています(後述)。
校長 廣川先生
開校準備の段階から札幌開成中等教育学校に関わる。開校後は札幌開成を離れていたが、2019年度より札幌開成中等教育学校校長に着任。
教頭 西村先生
イギリスへの留学経験もあり、MYPでは英語を担当していた。DPコーディネーターを経験後、現在は教頭を務める。
DPコーディネーター 野村先生
DPの物理を担当するほか、コーディネーターを務める。
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ーまず最初に、札幌開成の建学精神・教育理念についてお伺いしたいです。
「札幌市の教育ビジョンの中に、『自立した札幌人』という言葉があります。中高一貫で途切れることなく教育を行えるという本校の特徴を活かして、どのように自立した学習者を育めるかを考えました。その結果、『課題探究』『探究学習』に力を入れることになりました。子どもたちが自ら課題を見つけ、生涯学び続けられるようになることを理想としています(校長先生)
ー「探究型学習」という理想がまず最初にあったんですね。
「そのとおりです。だから、校舎の設計も『探究がしやすくなるように』作っています。教科別に教室が配置されており、生徒たちが教室を移動するようにしているのもその一例です」(校長先生)
科目毎にゾーンが分けられて教室が配置されています。
ーIBの導入を決めたのはどうしてでしょうか?
「いざ『探究型学習』をしようとなったとき、我々教員自身は必ずしもそういう教育を受けてきたわけではなく、そういった教え方をした経験もありませんでした。どのように探究型学習を教えていくかと模索していく中で出会ったのが国際バカロレア(IB)だったんです。当時はまだ日本語DPもない時期でしたが、学芸国際(東京学芸大学附属国際中等教育学校)さんがMYPを導入していました。素晴らしい教育だと思い、本校も導入することにしました。
また、本校は公立の学校ですから、市民に開かれた学校でないといけないとも考えています。入試として教科試験は課しておらず、適性検査とグループワーク、小学校の調査書だけで入学することができます」(校長先生)
ー公立高校としては初めて、MYPとDPの両方を導入されていますが、両方の導入にはどんな意図がありますか?
「課題探究をするうえで、IBのカリキュラムは素晴らしいものだと考えています。しかし、公立の学校ですから、生徒にも色々なタイプがいます。全員にいきなりDPをやらせるのではなく、MYPという下地を作った上で、希望する人がDPに進むという形が望ましいと考えています。
今年がDPとしては初年度となります。MYPで学んだ160名の生徒のうち、そのうち11名がDPに進むことを選択しました」(校長先生)
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ー札幌開成を選んで入学する生徒さんはどのような方が多いですか?
「公立学校なので、入学者は札幌市内の子どもたちです。特別な生徒が入学してくるわけではありません。ただ、他の学校に比べて特徴的なカリキュラムですから、それを自らの意思で選択したという意味で、高いモチベーションのある生徒は比較的多いと思います」(野村先生)
「本校では、生徒に対して『わたし、アナタが学びの主人公』というスローガンを掲げています。探究的な学習には生徒の主体性が不可欠です。なんでも先生から教わりたいという生徒には、実は向いていない学校だと思っています。好奇心を持って、自ら学びに行く姿勢をもった生徒に来てほしいということを開校前から伝えています」(西村先生)
ーIBMYP・DPを導入した当初、市内の保護者や生徒さんからはどのような反響がありましたか?
「初年度の募集では、160名の定員に対して約1600人の応募がありましたので、反響は大きかったです。最初は選考で面接も実施していましたが、MYPでの学習をすすめる中で、きちんとコミュニケーションがとれる人が向いているということも分かってきましたので、現在ではグループワークを選考に取り入れています」(西村先生)
ーお2人の先生方は、他の学校で教鞭をとられた経験もあると思います。他の学校と比べてみて、札幌開成の教育はどんな違いがありますか?
「私は高校の教員ですが、やはり今までの高校教育といえば、従来型の黒板を使った教育が中心でした。私の担当する物理では、実験器具が揃っていない学校もありましたし、市立の高校では生徒のタイプも多様なため、教員が工夫しなければいけないところが多くありました。本校では、探究に対するノウハウの蓄積もありますし、教師があれこれ指示をしなくても、生徒が自ら調べて学習する場面が多くあります」(野村先生)
ー具体的にMYPの授業ではどんな学習が行われるのでしょうか?
「たとえば国語を例に取ると、ある詩を読んでみて『誰が書いたのか』『読んでどう感じたか』を考えるのが従来の学習です。IBの学習では、『作者のバックグラウンドはどんなものか』『作者の立場で自分で詩を書いてみるとどうなるか』などを調べて考えます。それを通じて、作者が本当に伝えたかったことをみんなで考え解きほぐす授業がIBの学習です」(野村先生)
「私は英語の教員でMYPを担当していました。IBの英語では言語習得はもちろんですが、それ以上に『自分を知る』『世界を知る』ということが大きなテーマです。英語という言語を通じて、自分を表現する訓練をしています。中学1年生の最初の課題では、自分たちの学校生活を英語で説明できるように、iPadを使ってプレゼンテーションを作ります。ただ語学としての英語を学ぶのではなく、自分の中で『表現したいこと』を形成したうえで、それに必要なボキャブラリーを得ていくという学びがIBの学び方です」
「DPの物理では、個人研究のトレーニングをしています。基礎的な知識のインプットは終わっているので、そこからどんな実験をやるのかということから生徒が自分で考え、論文を書くことを目標にしています」(野村先生)
明るく、ICTも整った教室。国語の教室では縦書きしやすい縦長の黒板を使っていたりなど、教室ごとに工夫が凝らされているのが印象的でした。
ー札幌開成のDPではどんな科目が選択できますか?
「日本語A(文学)のHL/SL、English BのHL、歴史のSL、理科は物理・化学・生物のHL/SLの中から選択可能となっており、数学のHL、芸術はMusicとArtのSLが選択できます。また、数学HLと物理SLは日本語と英語の両言語で開講しています。MusicとArtのSLは英語で開講となっています」(野村先生)
※編集部注:科目選択にはいくつか条件があります
「科目選択の幅は一条校の中では広い方だと思います。もともと理数系の学校でしたので、数学と理科はHLでとれるようにしています。また、最大4科目を英語で学ぶことが可能なのも特徴的です」
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ー先ほど、中学入試の段階では適性検査・グループワークなどで選考していると伺いました。高2の段階では、DPに進むことを希望すれば、誰でも進むことができますか?
「誰でもというわけではなく、目安の基準を設けています。まずは、英語能力が一定以上あることが必要です。さらに、DPの理念を理解し、大学進学も含めて次のステップに繋げるという生徒自身の意思を面談を通じて確認しています。成績の基準も一応ありますが、やはりDPに進む意思がある生徒は成績も良い傾向もあり、結果としては希望者全員がDPに進んでいます」(野村先生)
ーDPの選択科目を見ると、英語での受講ができる科目も多くなっているので、ある程度の英語力は必要そうだと感じました。中学生の間にどのように英語力を高めているのでしょうか?
「本校にはALTも含めて10名のネイティブ教員が在籍しています。中2から『理数探究スキル』という授業が始まり、これは英語で開講しています。中3の『コミュニケーションデザインスキル』も英語で行われ、音楽と美術の授業も英語です。中3と高1のクラスでは、2人の担任のうち1人はネイティブ教員となり、ホームルームも英語で行われます。このように、学年が上がるにつれて授業や日常で英語を聞き、使う機会が増えるように設計しています。
実際に今年からDPを始めている5年生の生徒たちは、全員が3年生の時点から数学を英語で学ぶことを選択していました。なので、DPに進んだ段階では、数学に関しては英語で学ぶほうが分かりやすいというくらいです。」(西村先生)
ー他の普通の中高生と同じところからスタートしているはずなのに、それはすごいですね。
「DPを選択する時点(高校1年生)で、CEFRのB1~B2(※英検の準1級程度)を目指すということを目安としています。そのくらいの英語力が、学校に通って授業を受けているだけで自然と身につくように、カリキュラムを組んでいます」(西村先生)
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ーまだ最上学年が5年生ということですが、今の段階でDPの生徒さんたちは将来どんな進路を考えていらっしゃいますか?
「現時点では、ほとんどの生徒が日本国内の大学に進学を希望してますね。文系と理系に分けると、理系志望の生徒が多い状況です。一部海外大への進学を考えている生徒もいます」(野村先生)
「本校では、DP進学にあたって生徒本人の意思を最も尊重しています。中には、「DP=大学進学の単なる資格」という捉え方ではなく、IBで学ぶことが自分にとって楽しい、ためになるんだという思いで選択している生徒もいて、すこし驚いている部分もあります」(西村先生)
ーそれこそが、IBで学ぶことの本当の意義なのかもしれないですね。最後に、札幌開成でIBを学ぶことに興味を持っている生徒様、保護者の方に向けてメッセージをいただけますか?
「『一歩踏み出す勇気』を持ってほしいと思います。そういう勇気をもって入学してくれれば、色んなことにチャレンジできる機会があり、将来の道が開ける学校だと思います」(野村先生)
「学ぶことの楽しさを体感できる学校にしたいと思います。世界を変えるというと大げさになりすぎてしまいますが、自分を一番育ててくれる学びがあるので、それを楽しんでくれるような生徒さんをお待ちしています」(西村先生)
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市立札幌開成中等教育学校の取材記事をお届けしましたが、いかがでしたか?まだ卒業生の出ていない学校ではありますが、探究学習のために作られた校舎や、探究を軸にした授業が非常に魅力的でした。IBDPの選択科目としては理系科目が豊富であること、デュアルランゲージながら英語で受けられる科目が最大4科目あることが特徴的です。公立でこのような授業が受けられる学校が、今後も各地で増えてほしいと思いました。
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